佐野洋子さんといえば、『100万回生きたねこ』。
やや売れすぎではないかと思うほど、国民的ベストセラーであり、キングオブ絵本。
白猫の妻を亡くし、天を仰いで泣きじゃくる主人公の猫が出てくる頁をめくると、心臓がぐらぐらするような感覚をおぼえる。
佐野さんの絵本で次に有名なのは『おじさんのかさ』だろうか。
彼女のネーミングセンスはいつも秀逸だと思う。
これまで上梓した小説・エッセイなどにも『神も仏もありませぬ』だとか、『死ぬ気まんまん』だとか、『役にたたない日々』といった、いい意味でタイトルに“佐野洋子臭”が漂っている。
佐野さんの絵本といったら、僕は真っ先に『おぼえていろよ おおきな木』を推す。
ふつう、絵本のタイトルに「おぼえていろよ」なんて使うだろうか。
このワードに、僕は簡単に擦過傷を負わされてしまう。
それでいて、イラストは実に力が抜けていて、主人公のおじさんがチャーミングすぎるのだ。
物語は、こんな書き出しで始まる。
みごとな おおきな木が ありました。
おおきな木のかげの ちいさないえに、おじさんがすんでいました。
はるになったので、大きな木には はなが たくさん さきました。
ゆうびんやさんが きて、「ほんとに みごとな木だなあ。」と、木を みあげました。
「おれには とんでもない木さ。」
おじさんは かたを すくめました。
月並みな言い方だが、やっぱり佐野さんの作品は“シュール”。
子どもの絵本にありがちな「道徳」「善意」「友情」などには目もくれない。
そこがとにかくたまらないのだ。
『おぼえていろよ おおきな木』
作・絵=佐野洋子
発行=講談社
発行年=1992年
価格=1,100円(税込)