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一周して見えた景色

長らく疎遠だった母。
83歳のその母に、介護が必要となる時期が巡ってきた。
母は30年近く前に伴侶(つまり僕の父)を亡くし、以来、ずっとマンションでひとり暮らしを営んできた。
久しぶりに会った母はやせこけ、背は縮み、足元もおぼつかない。
加えて、部屋は尿臭で充ちていた。
母に対する積年のわだかまりは消えることはないが、仕方ないので、僕は介護に入ることにした。
長らく干していないという母の布団。
そこには等高線のような形をしておしっこの染みが付いていた。
それは、僕を40年以上前の記憶へと誘う。
今だから言えるが、僕は中学生までおねしょが止まらなかったのだ。
ああ。思い出した。
おねしょで濡れた僕の布団を、毎日干してくれていたのは母だったことに……。
僕も母も、ゆっくりと時間をかけて一周してきたのだ。
時という湖を――。

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